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◎プロローグ

かつて、世界には三つの大陸があるとされてきた。
しかし、300年前。一人の男によって新たなる大陸が発見された。
男の名は大賢者<Oラン・タンテローゼ。
ずば抜けた魔力と、豊富過ぎるとまで言われる程の知識を併せ持った、自他共に認める世界一の冒険家である。


グランは、一人乗りの小型船で航海している最中、海のど真ん中に巨大な結界をみつけた。
冒険家としての好奇心が疼き、ろくな調べもせず持てる限りの魔力をぶつけ、結界の破壊を試みた。
結果は成功。爆風とともに結界は消え、今まで海だったはずの場所に大陸が姿を現した。
結界により、視覚的にだけでなく、物理的にまでその姿を隠していたのだ。
この発見でグランは更にその名を世界に轟かせた。
並みの国家よりもその名は権力を持ち、ついにはこの新大陸の所有権までをももぎ取った。

こうして誰はばかる事無く探索を開始したグランだったが、ものの数分で行き詰ってしまった。
上陸してすぐに、新たな結界がグランの前に立ち塞がったのだ。
規模にしてみれば、大陸を覆っていた物を遥かに下回る物であったが、問題はそこではない。
大陸中を所狭しと結界が張られていたのだ。ざっと見回しても、その数は数十。否、数百はある。
ここは島ではなく大陸だ。見える範囲でこの数とすると、大陸全体で考えると、数千はおろか、数万、数百万は確実と見るべきか。
あるいは、それ以上であるということも考えからは外せない。
この結界一つ一つに、この大陸がそうであった様に、何かが隠されているのだとしたら。
そして、もしそれが人の命を左右する物であったなら、一つ結界を壊す度に命を危険に晒す事になる。
流石のグランもこれには躊躇した。
まずは情報だ。大陸の全体像を把握して、非常時にも対処できるようにしておかなければならない。
思い立ったら止まれないのがグランである。

その後、三年という年月を費やし大陸を一周し、地図を書き上げた。
しかし、その全てが海から数十メートルのところで途切れている。
結界が道を塞いでいて、内部へと進めないのである。
覚悟を決めたグランは、結界の破壊を決意する。
まずは比較的小さな物から壊すことにした。
目標を定め、緊張とともに魔力を放つ。圧縮された魔力の塊になす術も無く、結界は姿を消した。
そして、結界の跡に残されたものは、あまりに意外な物だった。
綺麗に装飾された長剣。
呆気に取られながらも、グランはその剣を手に取ってみた。
刃はこれ以上無いと思わせる程鋭く、見た目からは想像も出来ない程この剣は軽い。
およそこの時代では作ることは不可能であろう代物だ。
この事に気を良くしたグランは、調子に乗って次はこの辺りで一番大きな結界を壊す事にした。
緊張は無く、好奇心のみで放たれた魔力は、いとも簡単に結界を破壊した。
目を爛々と輝かせたグランの前に現れたのは、三体の魔物だった。
人の二倍以上もある巨躯に鋭い爪と牙。毛に覆われた身体はゆっくりとグランに近づいてくる。
先程の表情はどこへやら、一転して顔を引きつらたグランは急いで間を取ろうとした。
が、一足遅かった。魔物の一体がグランの胸から腹にかけて爪を走らせたのだ。
傷は深く、一瞬気が遠くなったが、なんとか堪えた。そして、間髪入れずに巨大な魔力の塊を三体の魔物に放った。
魔物は絶叫を上げ、やがて力尽きた。
致命傷となりうる傷を負ったグランは、息も絶え絶えに国へと戻り、約半年もの養療生活を余儀なくされた。

それからのグランは、慎重かつ迅速に事を運んだ。
大量の食料や医薬品などを大陸に持ち込み、万全の体制で結界を破壊したのだ。
こうして、次々と結界は破壊され、大陸は開拓されていった。
しかし、結界を破壊するという事は、常に危険が伴うという事だ。
時には目も眩む程の宝石であったり、時には見たことも無いような凶暴な魔物であったりと、結界から出てくるものは実に様々だ。
命を落としそうになったのも一度や二度ではない。
そんな事を繰り返しているうちに、グランは不思議なものを発見した。
直径2m程の魔方陣だ。
こんなものまで結界に隠されているのだから驚きだ。
数秒の躊躇をおいて、グランはその中心へと足を運んだ。
瞬間、周りの景色が一変した。
森の中の開けた場所にいたはずが、気が付けばグランは洞窟の中にいた。
足元には先程のものと同じ魔方陣があり、正面に目を向ければ、5〜6体の魔物が徘徊している。
状況を理解出来ずにいると、グランに気付いた二体の魔物が襲い掛かって来た。
かろうじて初撃をかわすものの、もう一体の爪がすぐ目の前にまで迫っていた。
とっさに死を覚悟したグランだったが、突然発生した炎に魔物が覆われ、間もなく絶命した。
ふと見ると、グランの傍らには小さなリスがいて、その開かれた口からは魔力の痕跡が見て取れる。
魔物を倒したのは、間違いなくこのリスだ。
容易に信じられる話ではない。動物、ましてやこの無害そうなリスが魔力を持つなどとは、噂にも聞いたことが無い。
などと思案している場合ではない。激昂した魔物が勢いよく殴りかかってくるのを冷静にかわし、魔力を放つ。
が、放たれた魔力は本人の意思とは関係なく炎へと姿を変え、魔物を包み込む。抵抗もむなしく魔物は絶命した。
今のは付加魔法だ。またしてもリス魔法を使ったのだ。
混乱する頭を何とか落ち着け、グランはこの危険な場所を離れるために魔方陣へと足を踏み入れた。
そして、先程と同様に辺りの景色が一変し、元の場所へと戻ってきた。
これを機に、魔方陣は大陸のいたる所で発見された。
魔方陣の先にあるのは洞窟とは限らなかった。何も無い高原、さびれた廃墟、滅んだ海上都市。
と、およそこの世界には存在しないであろう場所が多々あるのだ。


それから数十年、グランは大陸の謎の解明に全てを費やしてきた。
26歳で大陸を発見してから54年が経ち、80歳という年齢に達したグランは、ある計画を立てた。
その計画とは、学園都市『タンテローゼ』の設立。
この広い大陸に一つの巨大都市をつくり、その中心となる施設に学園を建てるというもの。
80歳ともなれば、いつ死ぬとも限らない。
そうなれば、誰がこの大陸の謎を解明するのか。誰がこの大陸を開拓するのか。
自分で描いているこの大陸の地図も、未だ3分の1程度しか埋められていない。
悔しいが、もはや自分では真実にたどり着くことは不可能と悟り、後世の人間にその使命を託すことを決意したのだ。

苦渋の決断の後も、グランは大陸を走り回っていた。
少しでもこの大陸と共に在りたい、少しでも真実に近づきたい。
その想いがグランを動かし続ける。

そして、計画立案から実に21年という年月をかけて、ようやくそれは完成の日を迎えた。
幾多の謎を抱えたこの大陸を解明するために作られた都市。
学園都市『タンテローゼ』
ここに集った者はおよそ500名。
皆それぞれが、完成を祝うために唄い、踊り、そして笑っていた。


『タンテローゼ』完成の日、森の中には一人の老人がいた。
大きな樹に背中を預け、地面に腰を下ろしている。
辺りは静寂に包まれ、ただ葉を揺らす風の音が聞こえるだけ。
老人は右手に銀杖を持ち、左手には筒状に丸められた大きめの古ぼけた紙を握っている。
老人の名は、グラン・タンテローゼ。
誰もいないこの場所で、グランは静かに息を引き取っていた。